「樹木医」という言葉で

「あぁ、あれね!」となる人は非常に少ないのではないでしょうか。

 

字で書かれていれば、

「樹木のお医者さんかな?」という推測はできそうです。

 

皆さんが樹木医と聞いてピンと来ないのは、

樹木医という資格自体が比較的新しい民間資格であるということもあるかもしれません。

 

実は、樹木医という制度が導入されたのは平成3年度で、

日本緑化センターによると、有資格者の数は、

令和2年12月現在で約3000人となっています。

 

最近は、樹木医への関心も高まっているようですが、

社会的な認知はまだまだ、されていないのが現状のようです。

 

では樹木医の有資格者は、実際どのような活動をしているのか、

一緒に見ていきましょう。

出版社 ‏ : ‎ 日本緑化センター; 改訂4版 (2014/6/1)
、出典:出版社HP

 

 

 

樹木医とは

 

樹木医は、一般財団法人日本緑化センターが認定事業をしている民間資格になります。

 

樹勢回復や樹木の保護管理に係る専門家を養成する…と言われると

具体的なイメージがしにくいかもしれませんが、

 

皆さんが「樹木医」という漢字から推測したとおり、

まさに「樹木のお医者さん」

というイメージをすると非常にわかりやすいと思います。

 

私たち人間も病気に罹ったら、医療の専門である医者に

自分の体について診てもらいますよね?

 

それと同様に、樹木も病気に罹った場合、樹木専門の医者が必要になります。

そのお仕事をしているのが、樹木医と呼ばれる人です。

 

この他にも、樹木の専門家として、樹木の保護管理や

ワークショップや講演を通して樹木に関する知識の普及・指導等するなど

様々な活動を行っています。

 

その活動の幅は、

天然記念物に指定されているような樹木から、

公園樹木、街路樹、庭木、御神木など、皆さんの日常生活に近いところに至っています。

 

仕事内容

では、実際にはどんな仕事をしているのでしょう。

 

一つは、皆さんがイメージする樹木専門の医者としての仕事

もう一つが、樹木の保護と育成に携わる仕事

 

大きく分けるとこのようになります。

では、それぞれについて、もう少し詳細に見ていきましょう。

 

樹木専門の医者

 

樹木医が行う治療は、

簡単にいうと、診察・分析を行い、適切な処置を行うことです。

 

樹木が病気になっていた場合、様々な要因が考えられます。

例えば、害虫によるものなのか、

風通しや日光、大気汚染といった環境によるものなのか…。

 

このように、どうして病気になってしまったのか、その原因を探るために

樹木が育っている環境を観察し、どのような診察をすべきかを検討します。

 

その後、専門器具等を用いながら、樹木の状態を診察します。

そして、その診察の結果に応じて、それぞれ必要な薬剤や肥料等を用いながら適切な処置を施して、病気を治します。

 

また、樹木の病気によっては、適切な処置がすぐにはできないこともあるので、

連日の作業をこなす必要もありますし、

屋外での作業なので、季節や天候、場所によって、体への負担が大きくなることもあります。

 

加えて、樹木医は非常に責任のある仕事をすることがあります。

それは、文化的・歴史的価値の高い樹木を扱う場合です。

 

例えば、天然記念物に指定されているような樹木を治療するにあたって、

病気の原因を見誤ったまま、不適切な処置を施してしまったら、

どうなるでしょう。

 

不適切な処置が原因で、樹木を傷つけたり、枯らしてしまったりした場合、

樹木自体の希少価値が下がりかねないことになります。

 

樹木は、成長に長い時を必要とします。

何十年、何百年という単位を見据える仕事をしているということもできるでしょう。

 

樹木の保護と育成

 

樹木医は、樹木の生態や生理についての専門家です。

 

その知識をもとに、調査や維持管理といった業務にも精通しており、

樹木の病気予防や保護・育成なども行っています。

 

例えば、樹木の剪定をすることで、

外形をよくするだけではなく、

日当たりや風通しを良くすることで、病気や害虫の予防を行っています

 

また、生育環境を整えるために、水捌けを良くして樹木の根に栄養や水を送ったり、

肥料などを用いて土壌改良を行ったりします。

 

また、樹木の調査や維持管理といった業務も非常に重要です。

調査を通して、予め人的被害や物損被害を抑制します。

 

樹木が人的被害や物損被害を発生させるのか、疑問に思うかもしれませんが、

今にも倒れそうな、大きな枝が落ちてきそうな樹木を想像すると、イメージがしやすいと

思います。

 

樹木が腐朽して倒木・落枝してしまった場合、樹木自体が傷つくことはもちろんですが、

その樹木の近隣・周辺に建物や交通量の多い場所だったら…。

 

交通網が機能しない、建造物が倒壊してしまう、または、

人の命を奪ってしまう危険性もあります。

 

このような倒木・落枝による人的被害、物損被害の発生を抑制するために

調査を行なったり、予防策を講じることも重要な仕事の一つです。

 

この他にも、街の造園計画や緑化計画に携わったり、

自然に関する知識や技術の普及活動や啓発活動を行っている方もいます。

 

たとえば、こどもたちや地域住民の方に、その地域の自然とその歴史に触れる

ワークショップや講演会を通じて、自然を保護する運動を活発に行ったり、

自然に興味・関心を持ってもらうということに努めていたりします。

 

樹木の専門家として、自然を保護するような活動に積極的に参加し、

活躍をしています。

 

就職

ここまで、樹木医の仕事の内容について述べてきましたが、

非常に専門性の高い仕事だ、ということがわかってきたと思います。

 

では、樹木医は就職先はどのようなところになるのか、気になる人も多いと思います。

 

樹木医の方たちが活躍する場は、先ほど述べたように、

天然記念物の樹木から、御神木、街路樹、庭木、公園樹木と様々です。

 

これらに関連する仕事といえば、

造園業や植栽管理業、林業などになります。

 

また、国や公共団体であれば、

緑化関係の職員、大学や専門学校の教員、研究所などが挙げられます。

 

このように、樹木医として得た専門的スキルを活かして、

幅広い活躍をしています。

 

しかし、この就職先が問題となるのは、樹木医補の場合が多いと思われます。

樹木医補とは樹木学や病中学などについて大学や専門学校で学んだ学生が

対象となっています。

 

樹木医の資格を取るには、試験に合格する必要がありますが、

受験資格に、樹木に関わる業務経験が7年以上という制限があります。

 

そのため、元々の本業が樹木や植物に関連する仕事で、

樹木医としてのスキル・知識を本業に活かす、というのが一般的です。

 

さらに、樹木医を専業として生計を立てていくことは、

現在の日本では、非常に困難なことです。

 

それは、樹木医としての業務と造園工事などを比較すると、造園工事への依頼が多いことや

樹木医に対する社会的認識、または、樹木医の診断業務等にかかる費用について

一般的な理解を得られていないことが原因の一つと考えられます。

 

社会的に樹木医への関心が高まっている傾向にあるといっても、

まだまだ樹木医を専業とすることは、かなり厳しいでしょう。

 

そのため、「樹木医の資格を取得したら、樹木医として専門的に活躍する。」ではなく、

「造園業や植栽管理業務を行いながら、その業務の中で樹木医として活躍する。」と

いうのが就職の実態に合っています。

 

また、

樹木医としての求人ではなく、資格を持っていると資格手当が支給されることもある

くらいの認識の方が、ちょうどいいのかもしれません。

出版社 ‏ : ‎ 日本緑化センター; 改訂4版 (2014/6/1)
、出典:出版社HP

 

 

樹木医の仕事のまとめ

樹木医は、「樹木のお医者さん」という側面だけではなく、

樹木の維持管理や保護・育成に携わっています。

 

それは、自然環境を守るということだけではなく、

その地域の歴史を守っていることにつながることもあります。

 

自然環境への関心や期待が高まっている昨今、

樹木医の社会的意義や将来性も高まっている傾向にあると言えるでしょう。

 

農林業や自然環境に携わっている方、興味のある方、

自然環境の保護に高い関心を持っている方は、資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。