社会保険労務士試験は1年に1回実施される国家資格です。社労士とは、社会保険労務士の略称で、社会保険労務士法に基づいた国家資格です。
企業経営に必要な「人・モノ・お金」のうち「人」に関するエキスパートで、労働や社会保険に関する法律と人事労務管理を専門とします。このコロナ禍、企業に対する国からの補償はあらゆる形で行われています。
企業の雇用維持の要となる雇用調整助成金は、労務管理が行われていない中小企業は、支給対象になりません。就業規則がない、賃金台帳がない、社会保険や雇用保険が正しく取得されていないなど。正しい労務管理の必要性が高まっています。労務管理環境を整えるために、社会保険労務士はコロナ禍、必要とされている資格の一つです。
社会保険労務士の資格を取得するのに、気になるのはその試験の難易度です。
まず過去の合格率からみていきましょう。
過去の試験の受験者数・合格率
申込者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
2011年 | 67,662人 | 53,392人 | 3,855人 | 7.2% |
2012年 | 66,782人 | 51,960人 | 3,650人 | 7.0% |
2013年 | 63,640人 | 49,292人 | 2,666人 | 5.4% |
2014年 | 57,199人 | 44,546人 | 4,156人 | 9.3% |
2015年 | 52,612人 | 40,712人 | 1,051人 | 2.6% |
2016年 | 51,913人 | 39,972人 | 1,770人 | 4.4% |
2017年 | 49,902人 | 38,685人 | 2,613人 | 6.8% |
2018年 | 49,582人 | 38,427人 | 2,413人 | 6.3% |
2019年 | 49,570人 | 38,428人 | 2,525人 | 6.6% |
2020年 | 49,250人 | 34,845人 | 2,237人 | 6.4% |
合格率が不安定な時期もありましたが、現在は5〜8%の間で推移しています。
受験者層から見る難易度
受験層は、オフシャルサイトに公開されていますが、20代から60代と幅広いです。
職業は会社員が半分以上、無職が13%、ついで公務員となっています。
無職には専業主婦や退職して間もないなど、比較的時間が自由な人たちが多く含まれています。退職後に、教育訓練給付を利用し、資格学校に通学する人もいます。
合格するには1000時間を要すると言われていますので、隙間時間で勉強をする会社員にとっては、無職層は、手強いライバルです。また、人事労務経験者・労働局・年金事務所などの、実務経験者も多く受験していますので、全くの初心者の受験生にとっては、厳しい試験となります。
そして、社労士試験には受験資格があります。大学、短期大学、専門職大学、高等専門学校を卒業した人など、高校卒業が最終学歴ですと、他の要件を満たさない限り、受験資格を得ることはできません。
他士業試験との難易度の比較
難易度でよく比較される他の士業は中小企業診断士・行政書士です。中小企業診断士、行政書士ともに、学歴要件などなく、受験したい人は全員申込むことができます。中小企業診断士の合格率は3-8%、行政書士は10%前後です。社労士は前述の通り、学歴要件などがあるので、似たような合格率でも、一概には言えませんが、受験層を考えても、社労士試験の合格率は2つの士業より、やや難しいと言えます。
試験の解答方法で見ると、難易度の考え方は変わります。
社労士試験は、選択式・択一式どちらも、マークシート方式です。後ほど詳しく述べますが、行政書士の試験ではマークシート方式加え、記述問題もあります。記述問題には、マークシートとは別の対策が必要となります。中小企業診断士の試験は、1次試験がマークシート方式による択一問題、2次試験は記述問題と、口述試験となります。
試験の形式がそれぞれ異なりますので、自分の得意不得意でも、難易度は、大きく変わるでしょう。
試験内容・合格基準による難易度
社会保険労務士試験の難易度を考える上で外せないのは、合格基準です。社会保険労務士試験には、労働保険法、社会保険法のそれぞれの選択式・択一式で合格基準点をそれぞれクリアしないと合格にはたどり着けません。そして、毎年、一生懸命勉強をしてきただけでは取れない問題が出題されます。令和3年度試験も、選択式であまり深堀をして学習しない、実務経験者有利の助成金関係の知識が問われる出題がありました。
中小企業診断士は1次試験・2次試験があります。科目は一般企業の経営や運営。業務遂行に必要な「経済学・経済政策」「財務・会計」他7科目です。1次試験は各科目40%以上、合計60%以上。不合格の場合でも、科目免除制度があるので、60%以上得点できた科目は翌年免除申請ができるのが特徴です。(科目合格)有効期限は2年となります。しかし、科目が減っても、合格基準の考え方は同じなので不得意分野のみが残った場合、ハードルが上がる場合もあります。得意分野と混ぜて、再受験する人もいます。
2次試験は、筆記試験となります。事例問題による企業診断や助言を記述します。字数制限があるので、要点をまとめる対策が必要となります。合格基準は問題ごとに40%以上・合計60%以上の得点となります。その後、合格者は、口述試験となります。口述試験は10分程度ですが、資料などを見ることができず、2次試験で回答した事例について、質問を受け、答える形となります。2次試験の合格率は20%前後・口述試験については90%以上となっています。
行政書士はどうでしょう?行政書士は「法令等科目」(選択式・記述式)「一般知識等科目」(選択式)の2つの科目で構成されています。法令等科目で50%以上(122点)・一般知識等科目で40%以上(24点)・合計60%(180点)をクリアしないと合格となりません。また合格基準の兼ね合いから、選択式の得点が120点以上でないと、記述式の採点にはすすみません。記述式の満点が60点であるため120点以上ないと合格点に満たないためです。 特徴としては、足切りの科目は細分化されていないので、その中で戦略的に科目を外して勉強する人もいます。記述は配点が大きいので、外すことはできず、対策は必須です。行政書士試験は社労士試験と同じく、科目合格はありません。
このように、合格基準は各士業それぞれです。1度で合格できれば、あまり気になる点ではないが、何度も受験するとなるとモチベーションを保つには、重要なポイントとなってくるでしょう。
社労士試験は、科目合格がない、記述などで部分加点をもらえる形式でない、毎年予期せぬ問題が出題されることを考えると、地道な学習が必要であることに加え、運や問題の相性に左右される部分もあり、難易度が高いと言えるでしょう。
社労士の難易度まとめ
社労士試験は、合格率・受験層・解答方法・合格基準の観点から考えても、難易度の高い試験であるようです。不合格が続き、数年間、受験することとなる場合もあります。他、同難易度と言われている中小企業診断士・行政書士の試験内容や特性と、自分の得意とするところ・合格までの道のりのイメージを照らし合わせ、本当に社労士試験が、自分に向いているのか、一度検討をしてから、勉強を始めるのも良いでしょう。