はじめに

貿易用語ごとにターゲットを絞った本は、何かと便利である。新聞等を読んでいてフッと調べたい用語が出てきた場合、気楽に調べることができる。また、ページをめくりながら知識を広げることもできる。しかも、それが図解であれば視覚を通して頭にも入りやすい。さらに、貿易実務検定®の学習の参考になればもっといい。

このような贅沢な知的欲求を満たす本ができないだろうか。われわれは、このようなコンセプトでこの本を企画し執筆した。

実は、この本には、それなりの歴史がある。約7年前に出版された『図解 貿易実務用語がわかる本』がこの本の親である。このコンセプトに基づいて書かれた最初の本である。そして、その後改訂版が発刊され、今回が3回目の生まれ変わりである。

ところで、貿易の世界は、非常に変化がめまぐるしい。「ある国とのFTAはまだ時間がかかりそうだ」と報道された後、翌月に締結されたりすることが、めずらしくない。また、その逆もある。

ミクロ的なところでも変化がある。貿易相手を探す手段や契約過程においてテレックスを使うことはなくなり、インターネットやe-mailが使われる時代になった。これらは、つい最近まで、一部の先進的な人が使っていたに過ぎなかったものだ。いまや、それらを駆使することは、当たり前の時代である。

貿易関連手続きも端末を使用して行う。たとえば、通関手続きもNACCS(通関情報システム)を使用して行い、ひと昔前のようなマニュアルによる、つまり紙ベースによる申告方法は、ほとんど行われていない。

このシステムも2008年秋には、大きく変わろうとしている。また、関税法の改正により日本版AEO制度が創設されたり信用状統一規則がUCP500からUCP600に改定されたりしている。

折りしも、私どもの主催する貿易実務検定®も今年で、10周年えることとなった。これも読者のみなさまをはじめ多くの方々に支えられた結果である。あらためてお礼申し上げたい。そして、本書が貿易を学ぶ方、貿易実務検定®、通関士国家試験などの検定、試験を目指す方、そして実務家の方々の一助になることを期待する。

各Chapterごとの執筆担当者は、以下の通りである。

 

Chapter1,2 貿易実務、通関 片山立志/中川章

Chapter3,4 コンテナ輸送、船舶輸送 土器薗歩

Chapter5 関税関連 片山立志/宍戸雅明

Chapter6 外国為替関連 中川章

 

2008年6月吉日

日本貿易実務検定協会® 理事長

片山立志

 

 

 

改訂2版 図解 貿易実務用語がわかる本 目次

CHAPTER1 貿易実務

1 輸入・輸出の市場調査

2 取引先の発見と信用調査

3 貿易取引交渉と契約の成立

4 オファー

5 契約書の基本

6 直接貿易と間接貿易

7 総輸入元と総代理店

8 貿易取引における品質の取り決め

9 品質決定の時点

10 貿易取引の数量条件

11 インコタームズ

12 2000年インコタームズ―E類型およびF類型

13 2000年インコタームズ―C類型

14 2000年インコタームズ―D類型

15 船荷証券

16 船積式船荷証券と受取式船荷証券

17 無故障船荷証券と故障付き船荷証券

18 指図式船荷証券と記名式船荷証券

19 国際複合一貫輸送と複合運送証券

20 船荷証券の危機

21 航空輸送契約

22 AWS(航空貨物運送大)

23 貨物海上保険

24 新ICCと旧ICC

25 海上保険の対象

26 コンテナ・ターミナル

27 貿易保険

28 輸出手形保険

29 クレーム

30 貿易クレームと解決手段

31 PL保険

 

CHAPTER2 通関

32 輸出通関

33 特定輸出申告制度

34 外為法と輸出貿易管理令

35 輸出申告の時期

36 輸入通関

37 簡易申告(特例輸入申告)制度

38 輸入と輸入貿易管理令

39 輸入許可前引承認(BP承認)

40 関税の課税価格の決定

41 AEO制度

42 認定通関業者

43 輸出入してはならない貨物

44 知的財産権侵害物品の水際取締り

45 保税地域

46 保税運送

47 ATAカルネ

48 NACCS

 

CHAPTER3 コンテナ輸送

49 海上コンテナ

50 コンテナ船

51 コンソーシアム(Consortium)

52 世界のコンテナ船社

53 コンテナ輸送に関する規定

 

CHAPTER4 船舶輸送

54 船舶輸送

55 船舶の種類

56 輸送契約

57 コンテナ船の海上運賃

58 不定期船の海上運賃

59 船舶輸送の情報システム

60 海運同盟

61 日本の海運の現状

 

CHAPTER5 関税関連

62 輸入税

63 一般税率

64 簡易税率

65 特恵関税

66 関税割当制度

67 関税の減税制度

68 関税の免税制度

69 関税の戻し税制度

70 特殊関税

71 附帯税

72 修正申告

73 更正

74 更正の請求

 

CHAPTER6 外国為替関連

75 信用状

76 信用状統一規則

77 荷為替信用状とスタンド・バイ信用状

78 厳密一致の原則

79 信用状の種類

80 信用状の当事者

81 信用状の実務

82 ディスクレパンシー

83 アメンドメント

84 信用状取引の注意点

85 為替手形(組手形)

86 荷為替手形

87 信用状なし決済

88 D/P・D/A手形

89 D/P・D/A手形の買取

90 D/P・D/A手形による代金回収(買取の場合)

91 海外送金

92 外国為替

93 外国為替相場

94 先物予約

95 並為替と逆為替

96 コルレス銀行

97 為替リスクの回避方法

 

索引

 

 

 

CHAPTER1 貿易実務

 

1 輸入・輸出の市場調査

 

個人の趣味の範疇で行う場合は別として、一般に採算の合わない貿易は成り立たない。採算に見合うか否かの判断資料として市場調査は、重要な意味を持つ。

輸入の場合の市場調査はそのやり方において、国産品の市場調査と共通するところは多い。しかし、輸入品の「市場への適合化」についての調査がさらに必要である。

具体的には、①輸入される製品が日本で規制されているか、②日本市場においてその商品の嗜好が適合するか、を調査することである。

「市場への適合化」は、当然、コストがかかる。コストを勘案し、採算についても十分な検討が必要である。

輸出の場合、輸出しようとする国の文化、地理、社会構造、法制度、政治経済、金融・為替、通商政策、物流、通信などの「一般的情報」と輸出しようとする「商品特有の情報」、たとえば、商品の消費者数、供給者数、市場、需要、製品、価格、競合製品などの情報と2つの側面から市場調査を行うことになる。また、輸出にあたって日本の法律によって規制されている場合もあるため、法律を確認する必要がある。

これらの項目を市場調査した上で、商品の需要度、市場の成長性、市場の形成などについて検討し、採算上も懸念なく輸出を行うメリットがあるかを判断し、輸出の意思決定を行う。輸出が行われることになると、具体的な戦略を練ることとなる。

イラスト1

 

 

 

2 取引先の発見と信用調査

 

貿易取引先をみつける方法は、次のような方法が考えられる。

  • 取引関係業者、同業者、知人から紹介を受ける。
  • 大使館の商務部などの在日外国機関を利用する。
  • 日本貿易振興機構(JETRO)、商工会議所などを利用する。
  • 海外の商工会議所、貿易関係団体に直接照会する。
  • 国内や海外の見本市を利用する。
  • 業界紙や専門紙などを利用する。
  • 海外に赴き相手先を訪問する。

このほか、最近では、インターネットを利用し取引先をみつけることも行われている。

これらの方法などにより、取引先候補がみつかった場合、契約締結前に相手方の信用を調査することになる。

調査は、国際的規模で経験と実績を積んだ商業興信所を選ぶ。世界的に有名なのが、1841年に設立されたダン社(The Dun & Bradstreet Crop.)である。この他、ジェトロ関連の(財)ジェトロ厚生会でもダン社と提携した調査事業を行っている。

信用調査は、次の事項を調査する。

①Capital(資産、財政状態)

②Capacity(営業能力、経験)

③Character(誠実性、品位)

④Conditions(政治、経済事情)

通常①から③を3C’sという。

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3 貿易取引交渉と契約の成立

 

貿易取引交渉のその流れは、おおむね次のとおりである。

①Proposal(勧誘)

②Inquiry(引き合い)

③Offer(申込み)

④Counter Offer(反対申込み)

⑤Acceptance(承諾)

第一歩として取引先候補に対するカタログなどの送付や外国の貿易機関への取引先照会依頼など積極的売込みを行う。この積極的売込みが、Proposal(勧誘)である。これに対し、Proposalの受け手がさらに詳細を問合せる事、たとえば価格の見積り、サンプルの依頼、取引条件の問合せなどを勧誘者に対し行うことをInquiry(引き合い)という。これらの交渉を得て、契約成立の要素である申込み、すなわちOffer(申込み)がされる。たとえば、売申込みの場合、売主により具体的な価格、納期、支払条件などが示される。これに対し、買主側が無条件に申込み内容を承諾すればAcceptance(承諾)契約は、成立する。Offerは売主からも行うことができ、それぞれ売り申込み、買申込みという。

しかし、たとえば売り申込みに対し、買主が価格のディスカウントを条件に承諾した場合には、契約は成立しない。これは、Counter Offer(反対申込み)といい、新たな申込みと解釈される。したがって、これに対するAcceptance(承諾)がないと契約は、成立しない。

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4 オファー

 

次の3つのオファー(OFFER: 申込み)の形態を注意すべきである。

①ファーム・オファー

承諾の回答到着期限を定めたオファーをファーム・オファーという。オファーをしたのはよいが、承諾の期限を限らなかったために承諾を受けた時には、もはや時勢に合わない内容になっていた、というトラブルを回避するために通常は、ファーム・オファーを行う。わが国の民法では、ファーム・オファーを行った者は、回答期限までは、オファーの内容変更や取消しはできない(民法521条)。なお、ファーム・オファーについてカウンター・オファーがされた時には、最初のファーム・オファーの効力はなくなる。

②サブコン・オファー

通常は、オファーとアクセプタンス(承諾)の内容が一致すれば契約は直ちに成立する。しかし、オファーを受けた者がそれを承諾しても申込み者がそれを確認しなければ契約は成立しないという条件を付けたオファーをサブコン・オファ一という。

③先売りごめんオファー

オファーの目的物である商品が売りきれてしまったら、その時点でオファーの効力も消滅するという条件つきのオファーである。供給する商品に限りがある場合に行われるものである。

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5 契約書の基本

 

貿易取引は、売買契約の1つである。つまり、申込みと承諾の意思表示が一致することにより契約が成立する諾成契約と解されている。したがって、契約書の作成は貿易取引成立のための要件ではない。

しかしながら、実務的には書面により契約内容を明確にし、契約を円滑に履行することができるようにするため、契約書の作成が行われる。また、無用なトラブルを回避するためでもある。

契約書の書式には、①注文書や注文請書を売買契約書として使用するもの、②契約事項を個々に確認し、すべて契約書に網羅するもの、③基本的な取引条件をあらかじめ協定しておき、個々の売買取引のつど、その取引条件を個別に規定していくもの、などがある。

小口の取引の場合、通常は、①注文書や注文請書により取引がされる。継続取引の場合には、③が使われることが多い。また、買付委託契約、受託販売契約などの場合には、②や③が使われる。

これらのうち一般的なものが①である。買主が作成するのが注文書型(Purchase Orderなど)、売主が作成するのが注文請書型(Confirmation of Order)の書式のものである。これらのいずれか2通を作成し、双方が署名することにより契約書となる。双方の署名がない場合には、単に注文書あるいは注文請書である。

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6 直接貿易と間接貿易

 

直接貿易とは、メーカーや小売店などが直接、外国企業と取引をする形態で直接輸入、直接輸出がこれにあたる。一方、間接貿易とは、一般に商社を介して取引を行うものである。

間接貿易の場合、貿易契約の当事者は、商社と海外の企業であり、国内のメーカーなどと商社間は、国内取引が行われることになる。

間接貿易は、このように商社が輸出入を行うのでメーカーなどは商社へマージンを支払うことになる。したがって、直接貿易と比較しその分経費がかさむ事になる。

最近は、直接貿易の割合も増え、商社不要論も出ているが、商社を利用した間接貿易には、次の利点がある。

①貿易を行うためには、国際商取引の知識、経験が必要である。また、高度の語学力も必要である。このような人材を育成する必要があるが、これを商社に肩代わりさせることが可能である。

②貿易取引の多くは、商品を買取る方式であるため、返品不能問題や代金決済上のリスクなどが発生する可能性がある。間接貿易の場合、これらのリスクは、商社により負担される。

③商社の場合、ほとんどの外国の市場、流通に精通している事が多く、また、商品知識も豊富であるところから、これらのノウハウを有効利用することができる。

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7 総輸入元と総代理店

 

一手販売権とは特定の地域において一定の商品を独占的に販売することのできる権利をいう。

一手販売権を有するのは、独占権付販売契約(Exclusive Distributorship Agreement)に基づく総輸入元(特約輸入店)や総代理店要約(Exclusive Agency Agreement)に基づく総代理店がある。

総輸入元(Sole Distributor)とは、輸出者から商品を輸入し自分の商品として販売するもので、輸出者と総輸入元は、本人対本人との取引関係になる。

一方、総代理店(Sole or Exclusive Agent)の場合、輸出者などの代理人として国内で販売するもので、輸出者などとは、独占権代理人(委託)契約を結ぶことになる。この代理人契約により、代理人は、本人(輸出者など)に代わって第三者との販売契約その他の法律行為を行うことになる。この代理行為により発生する法律効果は、直接、本人(輸出者)に帰属する。総代理店契約上に代理人が商品売込先の代金支払の保証をする旨の条項が置かれることもある。

なお、本人は、契約に基づき代理人に対してコミッションを支払う。この場合、代理人が代金支払の保証をした時には、保証手数料が加わる。

このように、法律的に両者は、異なるものである。しかし、一手販売権を有している点では、共通する。

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8 貿易取引における品質の取り決め

 

貿易取引で、品質(Quality)の取り決めは、非常に重要なことがらである。貿易クレームの80%(金額ベース)は、品質にかかわるものである。

品質の取り決めの方法は、①見本売買(Sale by Sample)、②仕様書売買(Sale by Specification)、③銘柄売買(Sale by Trade Mark or Brand)、④標準品売買(Sale by Standard)、⑤規格売買(Sale by Grade or Type)、がある。

見本売買は、見本により品質、性質、形状を決定するもので、見本と実際に取引される商品について品質、性質、形状が一致している必要がある。軽工業品の取引などに利用される。

仕様書売買は、プラントなど機械類、船舶、航空機などについて利用されるもので、図面、青写真などの仕様書を基に構造、性質、材質などを取り決めるもの。

銘柄売買は、ブランドやトレードマークが広く知られている場合、そのブランドやトレードマークを指定することにより品質が取り決めることができる。

標準品売買は、農水産物や木材などの取引に利用される。これは、あらかじめ標準品を設定することにより品質を決定する。

規格売買は、国際標準化機構のISO規格、日本工業規格のJISなどの規格を条件に品質を決定するものである。

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9 品質決定の時点

 

契約で定めた品質条件がいつの時点で履行されている必要があるかを取り決めることは、重要である。

取引契約上、品質決定の時点の取り決めは、次の2つのものがある。

①船積品質条件(Shipped Quality Terms)

②揚地品質条件(Landed Quality Terms)

契約に特約がない場合には、貿易取引条件の原則により品質決定の時期が取り決められる。

貿易取引条件がCIF条件であったりFOB条件である場合には、売主は、輸出地に停泊している本船に契約条件に合致した貨物を積み込み買主に引き渡す必要がある(つまり、本船に積み込むことにより売主の危険負担は、終了する)。したがって、CIF条件やFOB契約で、特約がない場合には、船積品質条件になる。

ところで、船積品質条件の場合には、本当に船積み時に品質が条件どおりのものであったかを輸出者に証明する義務を課すことが多い。日本海事検定協会など第三者機関でかつ権威のある機関が行い、検査証明書(Inspection Certificate)を発行してもらう。

一方、着船渡し(DES)や埠頭渡し(DEQ)などの場合、あるいは、特約のある場合には、揚地品質条件となる。(CIF、FOB、DES、DEQについては34~39ページ参照)

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10 貿易取引の数量条件

 

貿易取引では、次の数量条件を明確にしておく必要がある。

①数量基準

②数量決定時点

③数量過不足条件

④引受可能数量条件

数量基準とは、契約条件に使用する数量単位のことで個数、面積、重量、容量、長さ、包装などによる単位がある。特にこのうち、トンについては、重量トンと容積トンがあり、また、重量トンには、英トン、米トン、仏トンがあるので注意が必要である。

数量決定時点の取り決めには船積数量条件(Shipped Weight Terms)と陸揚数量条件(Landed Weight Terms)がある。特約や特段の慣習がない限り、CIF条件やFOB条件の場合は、前者が、DES条件などの場合には、後者の条件が適用になる(CIF、FOB、DESについては34~39ページ参照)。

数量過不足条件は、バルク・カーゴ(Bulk Cargo: バラ荷。鉱産物や穀物など)では、契約で定めた数量丁度を引渡すのが困難である。そこで、このような貨物については、契約で数量過不足容認条件をあらかじめ取り決めておく。

引受可能数量条件として、必要に応じ1回あたりの注文数量の最小限として最小引受可能数量を取り決めたり、逆に最大引受可能数量を取り決めたりすることがある。

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11 インコタームズ

 

インコタームズ(Incoterms)とは、国際商業会議所(ICC)が貿易条件(Trade Terms)の解釈に関する国際規則として制定した解釈基準である。

国際取引において、それぞれの国、地域などにより貿易条件の解釈の相違が起こることが往々にしてある。この解釈の相違が原因で、紛争になるケースも少なくない。

このような背景から、1936年にインコタームズが制定された。

その後、時代の要請に合わせ何度か修正、追加、削除され現在は、1990年版を改正した2000年版が最新版となっている。

このインコタームズは、法律でも国際協定でもないため、これを採用するかどうかは、当事者の自由である。また、採用する場合も、最新版の2000年のものを使用する義務はない。したがって、何年版のインコタームズを採用するのかを契約で明記しておくことが、後日の紛争の防止になる。

2000年版インコタームズでは、定型的な貿易条件を4類型13種類にまとめ、①費用負担の範囲、②貨物の危険負担の範囲についてそれぞれ規定している。

貿易条件に関する解釈上の基準が定められているのは、この他、改正米国貿易定義、ワルソー・オックスフォード規則があるが、実際に使用されることは少ない。

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12 2000年インコタームズ―E類型およびF類型

 

  1. E類型

E類型とは、出荷条件を示している。

EXWとは、工場渡条件のことで、輸出地の工場で貨物を引渡す条件のことである。この引渡しにより貨物の危険負担、費用負担は、買主に移転する。したがって、買主が輸出通関を行う。

  1. F類型

F類型は、主要運送賃を買主が負担するもので、FCA、FAS、FOBの3つの条件がある。

①FCAとは、運送人渡条件のことで、売主の指定した場所(たとえばコンテナ・ヤード)などで買主の指定した運送人(船会社、航空会社代理店、複合運送人)に貨物を引渡す条件。この引渡しにより危険負担、費用負担は、買主に移転する。海上貨物ではコンテナ船の場合に用いられ、その他航空輸送でも国際複合輸送でも用いることができる。

②FASとは、船側渡条件のことで、貨物を輸出港に停泊中の本船の側面につけた時に引渡しが完了する条件で、危険負担も費用負担もその時に買主に移転する。木材などの貨物に用いられる。なお、輸出通関義務は、輸出者である売主にある。

③FOBとは、本船渡条件のことで、貨物が輸出港に停泊中の本船舷側の欄干を越えたときに買主への引渡しが完了する条件。この時、危険負担も費用負担も売主から買主に移転する。在来船、内陸水路(運河)などの場合に利用される。

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13 2000年インコタームズ―C類型

 

C類型は、主要運送費込条件で、CFR、CIF、CPT、CIPの4つがある。

①CER(C&F)とは、運賃込条件のこと。危険負担は、FOBの場合と同じで、本船舷側の欄干を越えた時に売主から買主に移転する。しかし一方、輸入港到着までの運賃は、売主が負担する。在来船に使用される条件。

②CIFとは、運賃・保険料込条件のこと。危険負担は、FOBの場合と同様。しかし、売主は、輸入港到着までの運賃、保険料を負担する。

③CPTとは、輸送費込条件のこと。危険負担は、FCAの場合と同じで、売主の指定した場所などで買主の指定した運送人に貨物を引渡した時である。一方、輸入港到着までの輸送費は、売主が負担する。

この条件は、コンテナ貨物(船、航空機、国際複合輸送)の場合に使用できる。費用負担の範囲が在来船で使われるCFRに対応している。

④CIPとは、輸送費・保険料込条件のこと。危険負担は、FCAの場合と同様である。一方、輸入港到着までの輸送費、保険料は、売主が負担する。

この条件は、コンテナ貨物(船、航空機、国際複合輸送)の場合に使用できる。費用負担の範囲が、在来船で使われるCIFに対応している。

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14 2000年インコタームズ―D類型

 

D類型とは、到着条件で目的地に到着するまでのすべての輪送費と貨物の危険を売主が負担する条件をいう。これには、DAF、DES、DEQ、DDU、DDPの5つがある。

①DAFとは、国境持込渡条件のこと。国境の指定地で貨物の危険負担、費用負担が売主から買主に移転する条件である。わが国では、地理的条件からこの条件が使用されることは、ないが、海外の子会社などでは、この条件により取引することもある。

②DESとは、本船持込渡条件のこと。指定仕向港に本船が着船し、その本船上で貨物を買主に引渡すときに貨物の危険負担、費用負担が売主から買主に移転する条件である。

③DEQとは、埠頭持込渡条件のこと。売主が輸入港に貨物を陸揚げし、買主に引渡す。そしてその埠頭で貨物の危険負担、費用負担が売主から買主に移転する条件である。輸入通関義務は、買主にある。

④DDUとは、仕向地持込渡(関税抜き)条件のこと。輸入地の指定場所(倉庫、工場、事務所、鉄道駅など)まで貨物を持ち込み、買主に引渡した時点で貨物の危険負担と費用負担が売主から買主に移る条件。なお、輸入通関と関税納付義務は、買主側にある。

⑤DDPとは、仕向地持込渡(関税込)条件のこと。DDU条件プラス輸入通関と関税納付義務は、売主負担の条件である。

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15 船荷証券

 

船荷証券(B/L: Bill of Lading)とは、貨物を受け取った事を証明する受取証であり、また、本船上の貨物の請求権が化体された有価証券である。そして、裏書譲渡が可能な指図証券で、流通性がある(流通証券)。さらに、本船上の貨物を受け取る時に必要な引換証でもある。

輸出者が、輸出荷為替手形を発行し金融機関に買取請求する場合、船荷証券を添付する。金融機関は、この船荷証券に担保価値を認め、為替手形を買取るのである。

輸出者は、これにより、早期に輸出代金の回収を図ることができるのである。

船荷証券の種類は、次のように分類されているものが、重要である。

 

①船積式船荷証券(Shipped B/L)と受取式船荷証券(Received B/L)

②無故障船荷証券(Clean B/L)と故障付き船荷証券(Foul B/L)

③指図式船荷証券(Order B/L)と記名式船荷証券(Straight B/L)

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16 船積式船荷証券と受取式船荷証券

 

貸物が特定の船舶に積み込まれた時に発行される船荷証券が船積式船荷証券(Shipped B/L)である。別名、On Board B/Lとも呼ばれる。

B/Lの約款には、“Shipped on Board by Shipper….”(船積人により船積された….)と記載されている。これは、特定の船舶に実際に船積みされたことを示すもので、在来船の場合に船会社から発行される。金融機関が信用状(Letter of Credit: L/C)に基づき手形を買取る場合には、この船積式船荷証券を要求される。

受取式船荷証券(Received B/L)の場合、B/L上の約款には、“Received for Shipment….”(船積みのため受領した….)と記載されている。これは、運送人が貨物を受け取った事実だけを証明しているB/Lである。

たとえば、貸物を船会社指定の倉庫やコンテナ・ターミナルに搬入した時に発行される。また、船会社により複合輸送で運送される場合にも、受取式船荷証券が発行される。ところで、輸出者が信用状に基づいて輸出為替手形を買取請求する際に添付するB/Lは、確実に貨物が出荷された証として要求されるので、船積式船荷証券に限られている。そこで、受取式船荷証券の場合には、実際に船積みされたことを証する船種証明(On Board Notation)をB/L上に記載してもらうことで積式船荷証券と同等として扱われる。

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17 無故障船荷証券と故障付き船荷証券

 

無故障船荷証券(Clean B/L)とは、船会社に持ち込まれた物品や包装に瑕疵(キズ)がないことを示している船荷証券である。信用状に基づく手形の買取請求に添付する船荷証券は、この無故障船荷証券である必要がある。

船会社に貨物が持ち込まれた際に、その物品や包装になんらかの瑕疵があった場合、発行される船荷証券にその旨が記載される。この記載をリマークと呼んでいる。たとえば、箱が破損している場合には、“1 Case broken”のように記載される。このようなリマーク付きの船荷証券が故障付き船荷証券(Foul B/L)である。

信用状に基づいた手形買取の時に金融機関に提出する船荷証券は、無故障船荷証券でなければ、買取を拒絶される。

そこで、故障付き船荷証券であっても、書面上リマークを削除した、無故障船荷証券を発行してもらうために、輸出者が船会社に補償状(Letter of Indemnity: L/I)を差し入れることがある。この補償状には、リマークを消すことによって生じたすべての損害は荷送人の負担であることが明記され、問題が生じても船会社には、およばないことが記載されている。しかし、これはあくまでも輸出者と船会社の間でだけの了解であり、輸入地到着後にトラブルの原因にもなりかねず、差し入れは、慎重に行うべきである。

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18 指図式船荷証券と記名式船荷証券

 

指図式船荷証券(Order B/L)は、荷受人(Consignee)欄に“to Order”や“to Order of Shipper”と記載されている船荷証券で、貨物の権利者が裏書(Endorsement)することにより船荷証券上の貨物引渡請求権を他者に譲渡することができ、流通性がある。

ここでいう“order”とは、指図人という意味で、船荷証券の権利者に指図された者を指している。この指図は、裏書(船荷証券の裏面に指図する者が署名することにより行われる)によりなされ、被裏書人に貨物の引渡請求権が譲渡される。

荷為替手形の買取請求に添付する船荷証券は、銀行が担保とするために流通性のあることが必要なので、指図式のものに限られる。

この荷受人欄に特定人名が記載されている船荷証券が記名式船荷証券(Straight B/L)である。このような船荷証券は、裏書譲渡ができず、記載された特定人しか権利を行使することができない(ただし、民法で規定する指名債権譲渡の方法により第三者に譲渡することは、可能である)。

このように流通性がないので、荷為替手形の担保には、ならない。したがって、実務上は、代金がすでに支払われている場合など荷為替手形を取り組む必要がない時に利用される。

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19 国際複合一貫輸送と複合運送証券

 

国際複合一貫輸送とは、貿易取引において、①2つ以上の異なった輸送手段を利用しながら、②輸送責任を一人の複合輸送人が引き受ける輸送形態をいう。これにより、利用者は、一業者に依頼することによりドアー・ツー・ドアーの貨物輸送が可能になる。

複合輸送人は、「船会社」がなる場合のほか、自らは、輸送手段をもたない「利用運送事業者(NVOCC=Non-Vessel Operating Common Carrier)」がなる場合がある。

複合輸送は、当初「船会社」が航路以外の輸送も合わせて引き受ける形で発達していった。コンテナの発展が、内陸部までの一貫運送を可能にしたのである。

しかし、船会社が引き受ける場合、自社の海上輸送が輸送手段の中に組み込まれていることが必要であり、世の中が発展するにつれ、他の運送方法も多様な方法が要求されるに至った。そこで船会社以外にも、NVOCCが、いろいろな輸送手段(モード)の運送業者を利用しながら複合輸送を引き受けるようになった。

代表的な複合運送ルートには、船会社が複合運送人となるIPI(Interior Points Intermodal)、MLB(Mini-Landbridge)、NVOCCが複合運送人となるSLB(Siberian Land Bridge)などがある。

なお、船会社が複合運送人になる場合には、定期船(コンテナ船)の受取式船荷証券が、わが国のNVOCCの場合には、複合運送証券(Combined Transport B/L)が発行され、通常の船荷証券と同様の効果を持つ。

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20 船荷証券の危機

 

コンテナ船の高速化などにより、輸入貨物が日本に到着しても船荷証券などの船積書類が届かず、荷受人が貨物を受け取ることができない状態が、しばしば起きるようになった。こうした状態を船荷証券の危機と呼ぶようになった。

実務上、船荷証券の危機に際し、どのような対策がなされているのかをみてみよう。

①SWB(Sea Way bill)

SWB(海上運送状)は、B/L(船荷証券)と異なり有価証券ではない。したがって、貨物の受け取りの際、輸入者は、SWBを提示する必要はない。SWB上の荷受人かどうかを確認するだけで貨物の引き渡しがされる。関連会社など信用リスクがない取引先との場合に利用される。

②サレンダードB/L(Surrendered B/L)

積地の船会社が発行したB/Lに輸出者が白地裏書をし、それを積地の船会社が全通回収する方法である。船会社は、回収したB/Lの代わりにNon-Negotiable Copyを輸出者に交付する。そして、輸入地の自社の船会社や代理店などに荷受人(輸入者)への貨物の引渡し指図を行う。引渡し指図書に基づき、指図の内容と照合確認のうえ、荷受人に貨物を引き渡す。③L/G(輸入貨物引取保証状)

B/Lの到着が遅れているため、代わりに銀行の連帯保証がされたL/Gを船会社に差し入れ、貨物を受け取る。

この他、直送B/L扱いや電子船荷証券による方法がある。

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21 航空輸送契約

 

航空輸送契約には、大別して直接貨物輸送契約、混載貨物輸送契約、チャーター(不定期)輸送契約の3つがある。

直接貨物輸送契約とは、荷主が航空貨物代理店あるいは、航空会社(航空運送事業者)と直接結ぶ運送契約をいう。なお、通常、この代理店や航空会社は、国際航空運送協会(IATA)に加入している。

混載輸送契約とは、自らは航空機を持たない運送人である利用航空運送事業者(通称、混載業者)が、複数の荷主から小口の貨物を預り、自らが代表荷主となり航空会社と結ぶ輸送契約をいう。

混載業者は、独自の運送約款を持っており、集めた小口貨物を大口貨物にまとめ、重量が大きくなるにしたがって運賃率が安くなる「重量逓減制」などを利用して利益を出すものである。一方、荷主も、直接、小口貨物を航空会社に持ち込むよりも安い運賃で利用できるというメリットがある。

ところで、直接貨物輸送契約により発行される航空運送状をマスター・エア・ウェイビルといい、利用航空運送事業者から発行されるものをハウス・エア・ウェイビルという。

チャーター(不定期)輸送契約とは、荷主と航空会社との間で、運送期間、日時を指定して、各航空会社が独自で定めた運賃で、航空機の全スペースを借り切る契約をいう。

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22 AWB(航空貨物運送状)

 

貨物を航空機で運送する場合、航空会社およびその代理店や混載業者がIATA(国際航空運送協会)の規定に基づき、航空貨物運送状(AWB)を発行する。

AWBには、HAWB(ハウス・エアウェイビル)とMAWB(マスター・エアウェイビル)があり、次のような特徴がある。

①有価証券ではない。

AWBは、輸送契約の証拠になるが、B/Lと異なり有価証券ではない。

②受取式かつ記名式である。

AWBは、記名式であるのでAWBに記載されている荷受人(Consignee)に引き渡される。そのため、信用状取引の場合、荷受人は、信用状発行銀行とするのが一般的である。

③貨物の付保機能がある。

AWBには、貨物保険の付保機能がついており、「Amount of Insurance」の欄に貨物の価格を記載すれば自動的に保険がつけられるようになっている。これは、航空貨物は迅速であるため、別に保険会社で保険を付保する時間的余裕がないので、このようなシステムにしたのである。

④貨物の価格を申告する。

AWB上に申告された価格は、運送中の貨物の損傷に対する運送人の最高責任限度額になる。通常は、Declared Value for Carriage欄の申告価格は、NVD(No Value Declared)とする。NVDとは無申告の意味で、NVDとした場合は運送人の貸物に対する責任額は、IATA約款により1kgあたりUS$20となる。

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23 貨物海上保險

 

貨物が引渡されるまでには、いろいろな危険が存在する。たとえば、船舶輸送の場合には、沈没、座礁、盗難、抜荷、波ざらい、虫食いなどがあり、戦争、ストライキ、暴動などの危険も存在する。

これらの危険に遭遇して貨物が損傷したり、不着などが起こった場合にその損害をカバーするのが、貨物海上保険である。

なお、航空機による場合に付保する保険も貨物海上保険と称している。

貨物海上保険を付保するには、仕向地、積載船名、貨物の数量、価格などを海上保険会社に告知する必要がある。保険の申込み時にこれらが確定している場合には、確定保険契約を結ぶことができるが、たとえば、インコタームズの貿易条件により輸入者が保険契約をする場合には、輸入者は、輸出地での貨物の輸送状態を把握することができないので、内容について正確な告知ができない。このような場合、不確定事項以外についての告知を行い、概算保険金額で申込む予定保険契約を行い、不確定事項が確定した時点で確定保険に切りかえる方法をとる。予定保険契約の時点では、保険料や手数料は、不要である。確定保険の申込み時点で保険料が請求される。この予定保険には、個別契約ごとにされる個別予定保険(Provisional Insurance)と包括予定保険(Open Cover)がある。

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24 新ICCと旧ICC

 

貨物海上保険は、200年以上前につくられたイギリスのロイズ保険証券をもとに、ロンドン保険協会が制定した約款をひな型として世界の多くの国で準用されている。

しかし、この保険約款本文だけでは、多様化した貿易の実鹿をカバーしきれないため各種の特別約款を補充している。

こうした特別約款のうち、基本的かつ定型的なものを協会貨物約款(ICC: Institute Cargo Clauses)という。

しかし、ロイズ保険証券をもとにした保険約款(旧ICC)は、古めかしく難解であることから、国際連合の一機構である国連貿易開発会議(UNCTAD)でわかりやすい保険約款が制定された。これが新ICCである。しかし現在でも旧ICCが多く利用されている。旧ICCの基本条件は次のとおりである。

①FPA(Free from Particular Average)分損不担保……共同海損たる分損および全損と本船・はしけの座礁などがあった場合の分損および本船の衝突に起因する分損事故並びに損害防止費用などの費用損害のみをてん補する条件。

②WA(With Average)分撮担保……FPAでカバーする損害に加えて、海水漏れ損害などの海特有の危険によって被った一定割合以上の分損をてん補する条件。

③A/R(All Risks)全危険担保……上記の条件でカバーする危険の他、戦争、ストライキなど以外の事故による損害をてん補する。戦争・ストライキについては、別途特約を追加付保する必要がある。

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25 海上保険の対象

 

海上保険の対象となる損害は、貨物自体の損害と費用指定の2つがある。

◎貨物自体の損害

貨物自体の損害には、全損と分損がある。

全損には、現実全損と推定全損がある。現実全損とは、現実に全損が証明できるもので、推定全損とは、現実に全損が確定視されるが証明できないとき、貨物の回収や修理が可能であっても費用がかかって採算に合わないものをいう。推定全損の場合には、委付という手続きによって全損として取扱われる。

分損には、単独海損と共同海損がある。

単独海損とは、海上輸送中に個々の貨物に発生した損害で、被害を受けた被保険者(荷主)の単独の負担となる分損である。

共同海損とは、航海中に沈没など切迫した危険がある場合、これを回避するために故意かつ合理的に船に積まれている貨物の一部を投棄したような場合の損害をいう。

この場合、これにより利益を受けた者(残存財産の持主および船主)が共同してその損害を負担することとされている。

◎費用損害

貨物への損害の他損害防止費用、特別費用、救助費用、サーベイ費用などの附帯費用がある。これらも保険の対象になる。

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26 コンテナ・ターミナル

 

コンテナ・ターミナルは、コンテナ船専用の巨大な施設のことで、コンテナ・ヤード(CY: Container Yard)とコンテナ・フレート・ステーション(CFS: Containe Freight Station)から構成されている。

コンテナ船の接岸するバース(Berth)は、各区画ごとに特定の船会社に貸し渡され、それぞれの船会社がヤードオペレーター(Yard Operator)としてコンテナ・ヤード全体の管理を行っている。

たとえば、輸出の場合、一荷主の貨物でコンテナが満載される大口貨物であるFCL貨物(Full Container Load Cargo)については、直接、保税地域であるコンテナ・ヤード(CY)に持ち込まれ通関手続が行われる。特に税関からコンテナ扱いが認められている場合には、工場などでコンテナに貨物を積み込みコンテナ・ヤードに持ち込まれ、そのまま輸出通関手続が行われる。

また、一荷主の貨物だけでは、コンテナ1個に満たない小口貨物であるLCL貨物(Lessthan Container Load Cargo)の場合には、コンテナ・フレート・ステーション(CFS)に搬入される。その後、税関長から輸出許可を得た後、仕向先ごとに仕分けされ、他の小口貨物とともにコンテナに詰められる。

これを混載(Consolidation)と呼ぶ。

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27 貿易保険

 

貨物海上保険が輸送、保管中の貨物に生じた損害をカバーするのに対し、貿易保険は、信用危険や非常危険から発生する金銭的損害をてん補するものである。

信用危険とは、契約当事者の責任による事由から発生する代金、融資金などの回収不能、輸出自体が不能になるような危険である。たとえば、取引の相手方である外国政府が一方的に契約をキャンセルしたような場合である。

非常危険とは、海外取引で発生する取引の相手方には責任がない不可抗力の事由で起こる輸出不能、代金回収不能危険のことである。たとえば仕向国における輸入禁止、戦争、内乱による輸入不能などがある。

現在、貿易保険には、次の7系統の約款に基づく保険種目がある。

①貿易一般保険

②為替変動保険

③輸出手形保険

④輸出保証保険

⑤前払輸入保険

⑥海外投資保険

⑦海外事業資金貸付保険

これらは、貿易保険法と貿易保険特別会計法という2つの法律に基づいて独立行政法人日本貿易保険(http://nexi.go.jp)が保険者となっている。

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28 輸出手形保険

 

輸出手形保険は、貿易保険の1つである。これは、輸出貨物代金回収のために、「海外商社名簿」によりG格、個別保証枠の確認を受けたEE、EA、EF、EM格のバイヤー宛てに振出された主として信用状を伴わない荷為替手形を外国為替銀行が買取り、手形が不渡りになった場合、買取銀行の損失をてん補するものである。これにより、信用状なしの荷為替手形の買取を銀行がスムーズに行うことができ、その結果貿易が振興されることを目的とする。

輸出手形保険の被保険者は銀行だが、実務上は、あらかじめ「独立行政法人日本貿易保険」等と保険契約を結んでいる銀行に信用状なし荷為替手形の買取を依頼する輸出者が保険料を負担する。

買取後、手形が不渡りになった場合、被保険者である銀行は、「独立行政法人日本貿易保険」等から保険金を受け取るが、その受け取った保険金の範囲については、買取依頼人に、償還請求はできないこととなっている。

輸出手形保険のてん補範囲は、非常危険については買取銀行の損失額の95%、信用危険についても95%が上限となっている。したがって銀行は、買取金額と保険金の差額については、買取代金の償還請求を買取依頼人に対して行うことができる。

なお、地方自治体による追加補償制度は、平成14年3月31日より停止され、既引受分についてのみ引き続き各地方自治体において管理されている。また、平成17年4月より民間保険会社も引受けを行なっている。

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29 クレーム

 

輸入貨物に損害が発生した場合のクレームには、その損害がだれの責任によるものかにより、運送クレーム、保険クレーム、貿易クレームがある。

運送クレームは、運送人に責任がある場合に申し立てるものである。たとえば、船荷証券が無故障船荷証券であるのに、荷卸し時に発行されるボートノートに損傷についてリマークがある場合には、運送途上で損傷が発生したことが考えられる。このような場合に運送人である船会社にクレームを申し立てる。もっとも、実務的には、その損害が保険でカバーできる場合には、荷主である輸入者はいったん保険会社に保険金請求を行う。

保険クレームは、航海中の海難によって貨物に損害が発生している場合に、保険会社に申し立てるものである。貨物の損害がいつ誰の責任によって発生したのかを客観的に評価するサーベイ(Survey)が必要な場合には、サーベイヤー(鑑定機関)に依頼する。サーベイヤーは、保険会社により指定される。なお、日本におけるサーベイヤーには、「日本海事検定協会」、「新日本検定協会」の2つがある。また、外国との保険契約については、国際的に信用のあるイギリスのロイズ・サーベイヤーなどを起用するのが一般的である。

また、違約品、梱包の不良など保険でてん補されない輸出者の責任である損害が発生した場合には、輸出者に貿易クレームを申し立てる。

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30 貿易クレームと解決手段

 

貿易クレームの解決手段は、

話し合い、斡旋、調停、仲裁、裁判(訴訟)などがある。

クレームの解決方法で最も多いのが話し合いによるものである。

当事者の話し合いが不調に終わった場合には、斡旋という方法で解決を図ろうとすることもある。これは、商工会議所、取引に関係する商社、銀行などの第三者に依頼し、双方の言い分を聞いてもらい妥協点や譲歩点を引き出しながら解決を図ろうとするものである。どちらかが拒否した場合には、斡旋は、失敗となる。また、たとえ双方が同意しても法的拘束力はない。

調停は、当事者の意思に基づいて解決を図るもので、当事者が選定した調停人によって行われる。この方法も法的拘束力はない。

また、あらかじめ契約に仲裁条項を定めておくことにより、仲裁人に解決一切を任せ、裁定をしてもらことで解決を図ることができる。この裁定は、仲裁に関する条約加盟国同士の間では法的拘束力を有する。もし、裁定内容の履行がされない場合には、裁判所で執行判決を得て強制執行が可能である。

また、裁判による解決は、裁判管轄権の問題などがあり、大変難しい。

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31 PL保険

 

PLとは、Products Liabilityの略語で、PL保険は、生産物賠償責任保険のことである。これは、製品の欠陥により消費者等の第三者に身体上の障害または財産上の損害を与えた場合、製造者、販売者、輸入者などが負う法律上の損害賠償責任をカバーする保険である。

米国やEU加盟国は、早くからPL責任は、無過失責任を導入してきたが、わが国では、1995年の製造物責任法成立により実現した。

PL保険には、輸出製品を対象にした輸出PL保険(輸出生産物賠償責任保険)と国内で販売される製品を対象とした国内PL保険がある。

輸出PL保険は、輸出契約により加入が義務づけられている場合がある。海外でのPL訴訟が増えているところから、この保険に加入するメリットは、大きい。しかし、米国における懲罰的損害賠償(Punitive Damages)の場合には、免責になる。

国内PL保険は、輸入品を含む日本国内で販売される製品を対象としている。製造物責任法では、輸入者は、輸入品に対してPL責任を課していること等からこの保険の意義がある。なお、1995年7月から中小企業者向け生産物賠償責任保険も創設された。

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