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司法試験とは、弁護士、裁判官、検察官といった法曹三者を目指す人が受験する国家試験です。
司法試験というと誰もが聞いたことのある試験だと思います。では、司法試験を受けようと思ったら誰でも受験することができるのでしょうか?
この記事では、司法試験の受験資格について紹介していきます。
司法試験は誰でも受けられる?
司法試験は、年1回、例年5月中旬に実施されます。
試験は、短答式試験(マークシート式)と論文式試験(記述式)の筆記試験です。
短答式試験は、憲法、民法、刑法の3科目です。
論文式試験は、全部で次の8科目があります。
・公法系科目:憲法、行政法
・民事系科目:民法、商法、民事訴訟法
・刑事系科目:刑法、刑事訴訟法
・選択科目(倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際関係法(公法系)、国際関係法(私法系)の8科目の中から1科目を選択)
合格率は、およそ20%〜30%程度で推移してきましたが、近年は受験者数の減少により合格率が上昇傾向にあり、令和2年は39.2%、令和3年は41.5%となっています。
司法試験に受験資格はある?
受験資格は2つ
司法試験には受験資格があり、誰でも受験できるわけではありません。
受験資格は次の2つです。
●法科大学院の課程を修了
●司法試験予備試験に合格
それぞれの受験資格は取得してから5年間有効で、この5年間は毎年司法試験を受験できます(つまり合計5回まで受験できます)。
(平成26年までは5年間で受験できるのが3回までという回数制限がありましたが、平成27年からこの制限がなくなりました)
仮に5年間で合格できなかった場合、新たにどちらかの受験資格を取得しなければ司法試験を受験することができません。
それでは、この2つの受験資格について詳しくみていきましょう。
法科大学院の課程を修了
法科大学院とは、法曹(裁判官、検察官、弁護士)の養成に特化した教育を行う専門職大学院のことで、ロースクールとも呼ばれます。司法制度改革の一環として、平成16年にスタートしました。
この法科大学院の課程を修了することで、司法試験の受験資格を取得できます。
法科大学院には2つのコースがあります。
・「既修者コース」:法学部などで法律に関する基礎知識を身につけた人が対象
・「未修者コース」:法学部以外の学部出身者など、法律知識を身につけていない人が対象
既修者コースは2年間、未修者コースは3年間のコースとなっています。
なお、法科大学院に入学するためには、基本的に大学を卒業することが必要です。
ここで、4年生の大学の学部生を例として、法科大学院ルートの司法試験受験までの大まかな流れをご紹介します(法学部でも他学部でも同様です)。
学部4年
8月〜11月 |
法科大学院入試
(私立大学が8月〜9月頃、国公立大学が11月頃) |
翌年3月 | 学部卒業 |
同年4月 | 法科大学院入学
→既修者コースは2年間、未修者コースは3年間 |
修了前の12月頃 | 司法試験出願 |
翌年3月 | 法科大学院修了 |
同年5月 | 司法試験受験 |
●新たにスタートした「法曹コース」
ここまで紹介したのは、従来の法科大学院ルートの説明で、学部4年間+法科大学院2年間(3年間)と、受験資格取得までに合計6年(7年)を要するものでした。
しかし、2020年から新たに「法曹コース」という制度がスタートしました。
これは、法学部等と法科大学院が連携して一体的な教育をすることで、従来よりも短い期間で法曹になることができるという制度です。
この制度の大きなポイントは、次の2点が挙げられます。
・学部3年での卒業が基本(早期卒業扱い)
・法科大学院在学中の司法試験受験が可能
この制度では、
「学部3年→法科大学院2年/在学中に司法試験受験→修了後、司法修習」
というのが最短のルートですが、大学入学から合計6年で法曹資格を取得することができます。
注意が必要なのは、「学部3年で卒業」という点ですが、これは従来の早期卒業と同じ扱いになるので、取得単位数や成績の要件を満たす必要があります。
仮に3年で卒業できなかったり、留学などで学部を4年間で卒業する場合でも、法科大学院在学中に司法試験を受験することは可能なので、従来よりも司法修習の終了時期が早くなります。
予備試験に合格
司法試験予備試験とは、経済的事情など様々な理由で法科大学院に進学できない人でも法曹資格の取得を目指すことができるように設けられた試験です。
この試験に合格することで、法科大学院修了と同等の資格で司法試験を受験することができます。
予備試験に受験資格はないので、誰でも受験することができます。法科大学院生、法学部生だけでなく、社会人の人が受験したり、中には高校生が受験するケースもあります。
予備試験は、短答式試験(マークシート式)、論文式試験(論文形式)、口述試験(口頭試問形式)の3段階で実施されます。
例年、短答式試験は5月、論文式試験は7月、口述試験は10月に行われます。
試験科目は次の通りです。
【短答式試験】
憲法・行政法、民法・商法・民事訴訟法、刑法・刑事訴訟法、一般教養科目
【論文式試験】
憲法・行政法、民法・商法・民事訴訟法、刑法・刑事訴訟法、一般教養科目、法律実務基礎科目
【口述試験】
法律実務基礎科目(民事、刑事)
この予備試験ですが、合格率はとても低く、受験者全体に対する最終合格者の割合は、毎年4%程度です。とても難易度の高い試験です。
受験者数 | 最終合格者数 | 合格率 | |
令和2年 | 10,608人 | 442人 | 4.2% |
令和元年 | 11,780人 | 476人 | 4.0% |
平成30年 | 11,136人 | 433人 | 3.9% |
平成29年 | 10,743人 | 444人 | 4.1% |
平成28年 | 10,442人 | 405人 | 3.9% |
どちらのルートを目指すべき?
法科大学院ルート、予備試験ルートには、それぞれメリットとデメリットがあります。
メリット | デメリット | |
法科大学院 | ・受験資格取得の確実性
・授業料免除などの制度がある ・法曹コースが始まった |
・時間と費用がかかる
・司法試験合格率が高くはない |
予備試験 | ・時間と費用を抑えられる
・司法試験合格率が高い ・就活で有利な場合もある |
・合格率がとても低い
・受験を繰り返すと時間も費用もかかる ・独学の要素が強い |
法科大学院ルートのメリット、デメリット
法科大学院ルートは、予備試験の難易度に比べると修了の難易度が高くないので、きちんと勉強すれば高い確率で司法試験の受験資格を取得できます。
法科大学院ルートは、入学する前に学部で4年間勉強した後、法科大学院で2年または3年間勉強しないと、司法試験の受験資格を取得できません。そのため、予備試験ルートに比べると最低限必要な時間が多いです。
また、国公立大学でも法科大学院の授業料と入学金を合わせると200万円近くなります。これ以外に生活費が必要ですし、私立大学であればさらに費用が必要になります。
しかし、法曹コースが新たに始まったことで、従来よりも司法試験合格までの期間を短縮できるようになりましたし、授業料免除や奨学金などの制度を利用できれば費用を抑えることができます。
予備試験ルートのメリット、デメリット
予備試験の傾向で注目すべきは、司法試験の合格率の高さです。
予備試験合格者で司法試験を受験した人の合格率は、近年、90%程度と極めて高い数字となっています。
あくまで傾向ではありますが、予備試験に合格することができれば、それだけ司法試験の合格に近づくといえるでしょう。
次の表は、予備試験合格の資格で司法試験を受験した人の合格率をまとめたものです。
受験者数 | 短答合格者数 | 合格者数 | 合格率 | |
令和3年 | 400人 | 400人 | 374人 | 93.5% |
令和2年 | 423人 | 419人 | 378人 | 89.4% |
令和元年 | 385人 | 381人 | 315人 | 81.8% |
平成30年 | 433人 | 431人 | 336人 | 77.6% |
平成29年 | 400人 | 393人 | 290人 | 72.5% |
また、予備試験は誰でも受験できる試験であるため、効率よく勉強できれば、最短で2〜3年で予備試験合格を目指すことができるので、時間をおさえられます。
また、独学で合格を目指すことは非常に難しいですが、予備校を利用したとしても、法科大学院よりも費用をおさえることも可能です。
もっとも、予備試験の合格率は極めて低いです。
先ほど見た通り、最終合格した人の割合は4%程度です。
1回目の受験で合格できればいいですが、何度も受験を繰り返せばその分だけ時間も費用もかかってしまい、人によっては法科大学院よりも時間と費用を要する場合もあります。
これだけ難易度の高い試験ですので、予備試験に合格できれば就活で有利に働く場合もあります。
どちらのルートが良い?
では、これから司法試験受験を目指そうと考えている人は、どちらのルートを選ぶべきでしょうか。
まず考えるべきは、時間と費用です。
法科大学院に進学できるのであれば、法科大学院を目指すことをおすすめします。
実務家の先生の授業があったり、エクスターンシップで実務の仕事の様子が見られるなどのメリットのほか、同じく司法試験を目指す仲間に出会えます。ここでの出会いは合格後も大切なものとなってきます。
法科大学院に進学する場合であっても、予備試験を受験するメリットはあります。
司法試験の1年前〜半年前に予備試験の合格水準まで勉強できていれば、学習面でも精神面でも一定の余裕ができます。
また、学部段階で予備試験に合格して、法科大学院1年目で司法試験に合格し、法科大学院を中退するという人もいます。
予備試験は司法試験よりも出題範囲が広く、出題傾向も若干異なるため、司法試験対策で手一杯の人にとっては予備試験対策が無駄になってしまうかもしれません。
しかし、司法試験の1年前に短答式試験を合格レベルまで完成させることができるほか、上記のメリットもあるので、予備試験を目指すことはあまり損とはいえないでしょう。
社会人の方は、仕事を辞めて法科大学院に入学するというのも一つの手ですが、仕事をしながら通学するのはかなり難しいと思われます。法科大学院では大体の人が勉強に追われる生活になります。
仕事をしながら勉強したい人は、予備試験の合格を目指すのが良いでしょう。
司法試験の受験資格まとめ
以上、司法試験の受験資格について紹介してきました。
時間と費用をかけずに司法試験の受験資格を取得したいなら予備試験、確実に受験資格を取得したいなら法科大学院、法学部からのルートで受験したいなら法科大学院といえます。
ただし、どちらかでなければならないというわけではなく、法科大学院生で予備試験を受験する人も多いのが実情です。法科大学院ルートを選ぶ人でも、予備試験を目指すことのメリットはあるので、予備試験に向けた勉強をしてみてはいかがでしょうか。
司法試験をこれから目指す人は、この記事を参考にしながら、自分が目指すべき道をきちんと理解した上で選択してみてください。